前登志夫による・・・2008/05/19 21:08

  両の手をひらき垂れたる歩みにて遠き山嶺ひびき来たれり

                                   阿木津 英『巌のちから』



 両手をひらいてぶらりと垂れたままの姿は、前方に存在するなべてを受容するかたちだろうか。はるかな山の頂きがりんりんと響き迫ってくる。ひどく暗示的な自然宇宙との交霊の一瞬でもあろうか。この上なく古代的な光景だが、原始的なシャーマンとは異なる思索者の姿もある。


               (前登志夫「巻頭秀歌 歌意」、『NHK短歌』No.134 2008.5)