街上遊歩 (23)火薬を巻きつけて2008/11/10 22:25

 「自爆犯は女性司法修習生」という見出しに顔写真を添えた記事を、先日、新聞で見た。
パレスチナ自治区ジェニン出身の二十九歳の女性である。
イスラム聖戦に所属していた兄弟の一人といとこが、この六月、イスラエル軍の侵攻作戦で殺されていた。イスラエル軍は、自爆の報復として、ジェニンの女性の実家を爆破したという。これで、女性自爆テロは四人目である。


 身に火薬巻きつけて少女ゆく道をおもはざらめや照り返す日に   英


 三人目は、ドゥヘイシェ難民キャンプで育った十八歳の少女だった。学校からの帰り道に火薬を受け取り、そのまままっすぐスーパー・マーケットへ行った。出入り口で守衛に呼び止められ、そこで自爆したという。

 この話は、昨年六月、数百人規模の虐殺があったのではないかといわれるジェニン難民キャンプ取材のニュース番組を、インターネットの動画配信で見て知ったのである。

 少女の親友の家は、イスラエル軍兵士のスナイパーに日頃から狙われていた。ゲームでもするように、向かいのビルから弾丸が小窓に撃ち込まれ、ある日、部屋にいた親友を貫いた。
身を寄せ合うようにして暮らす難民キャンプでは、その日頃からの圧迫感はわがことのように感じられていただろう。婚約者がいて、三ヶ月後には結婚するというのに、親友が殺されたのをきっかけに、ようやく堰き止めていた感情はおしとどめようがなくなる。

 自分の未来のすべてをなげうち、過激派のアジトに行って、殉教者となる誓約書を読む姿をビデオに撮ってもらい、火薬を受け取る。火薬には、殺傷力を増すために、太いねじ釘がたくさん混ぜ込まれてあり、ずっしりと重たかっただろう。

 怪しまれないように、衣服の下にその火薬を巻きつけ、道に出る。あたりには、学校がひけたあとの難民キャンプの子どもたちが遊んでいたかもしれない。

 まぶしいほどの午後の日ざしが、歩んでゆく道を照り返していただろう。イスラエル人がよく行くスーパー・マーケットまでのいくばくもない距離を、少女は歩みすすんでゆく。

 その思いつめたような歩みを、悲しまないでいられようか。


                              (西日本新聞2003.10.15)

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