松村由利子による・・・ ― 2008/08/02 12:43
著者は昨年、十三年ぶりに五冊目となる歌集『巌のちから』を出版した。
その真っすぐで力強い詠いぶりに、過去の歌集を再読したくなったファンも多いに違いない。第一歌集『紫木蓮まで・風舌』から第四歌集『宇宙舞踏』までをまとめた本書は、新旧のファンを魅了する一冊となっている。
いにしえの王(おおきみ)のごと前髪を吹かれてあゆむ紫木蓮まで
産むならば世界を産めよものの芽の湧き立つ森のさみどりのなか
のびやかな調べは、既成の価値観にとらわれない精神性からくるものだろうか。「フェミニズム短歌」と少しばかり揶揄のこもった言い方をされたこともあるが、作者の持ち味であるたっぷりした詠いぶり、大どかさは、時代を超えて心を揺さぶる。
女性性をテーマにした印象が強かった人には、思いがけない歌も多いだろう。
意地悪き顔の百姓男くるひらたくかわく道のおもてを
の骨太さには、斎藤茂吉に通じるものがある。
浴室のタイルの壁を軟体のなめくじひとつのぼりてゆけり
には、吉原幸子を思い出させられる。
地下壁の広告見れば蛍光に透く青き波。--青は慰め
足裏に月をおさへて立ち上がる宙(そら)のをんなのそのゆびぢから
長く定型に向かい続けた著者の歌は、今も進化し続けている。その文体や技巧の着実な足跡をたどる意味でも、記念すべき愛蔵版だと言えそうだ。
(『短歌新聞』2008.5.10「のびやかさと着実さ」)
その真っすぐで力強い詠いぶりに、過去の歌集を再読したくなったファンも多いに違いない。第一歌集『紫木蓮まで・風舌』から第四歌集『宇宙舞踏』までをまとめた本書は、新旧のファンを魅了する一冊となっている。
いにしえの王(おおきみ)のごと前髪を吹かれてあゆむ紫木蓮まで
産むならば世界を産めよものの芽の湧き立つ森のさみどりのなか
のびやかな調べは、既成の価値観にとらわれない精神性からくるものだろうか。「フェミニズム短歌」と少しばかり揶揄のこもった言い方をされたこともあるが、作者の持ち味であるたっぷりした詠いぶり、大どかさは、時代を超えて心を揺さぶる。
女性性をテーマにした印象が強かった人には、思いがけない歌も多いだろう。
意地悪き顔の百姓男くるひらたくかわく道のおもてを
の骨太さには、斎藤茂吉に通じるものがある。
浴室のタイルの壁を軟体のなめくじひとつのぼりてゆけり
には、吉原幸子を思い出させられる。
地下壁の広告見れば蛍光に透く青き波。--青は慰め
足裏に月をおさへて立ち上がる宙(そら)のをんなのそのゆびぢから
長く定型に向かい続けた著者の歌は、今も進化し続けている。その文体や技巧の着実な足跡をたどる意味でも、記念すべき愛蔵版だと言えそうだ。
(『短歌新聞』2008.5.10「のびやかさと着実さ」)
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