街上遊歩(25)鴉の言い分2009/03/12 19:57

 羽根をいっぱいに張り拡げて飛び立つ鴉に、猫が大跳躍して、果敢にうち向かっている広告写真が、何年か前、駅の構内に貼ってあった。背景は、ゴミが散乱している荒地である。

 猫にとって、鴉は油断ならない相手だ。子猫なら喰うし、争いが起きれば空から攻撃する。野良だったうちの猫も、鴉がベランダに近寄ってくるや、ただならぬ気配で戦闘態勢にはいる。夜明けがたの街裏では、餌をめぐる戦争が起きているのだろう。

 鴉はご馳走の生ゴミを漁ったあと、マナーがないというので、ヒトに憎まれるが、とても黙ってやられているばかりではない。敵の玄関口に、わざと生ゴミを散乱させて復讐をするのだそうだ。

 東京都では、何年か前から鴉と戦闘態勢に入っている。公園に大がかりなワナを作って、昨年度は一万二千羽を捕獲した。本年度の目標は一万三千羽だという。


 鴉の屍(し)おびただしくも積む穴のほつかりひらく街衢(がいく)のそらに    英


 その捕獲した一万二千羽の鴉は、どうなったのか。新聞でニュースを読んだとき、ふと思った。一万二千羽の真っ黒いかたまりが積み上げられて、ゴミ処理場の焼却炉のなかに投げ込まれたのだろうか。

 アウシュビッツの死体の山が連鎖的に思い出される。これは鴉の大虐殺だ。鴉会議では、黙って引き下がるべきかどうか、ヒト対策に知恵を絞っているはずだ。

 「ヒトほど狡賢いやつはいないな。カァ」
 「カァ。そもそもバブル景気のころ、飲めよ、喰えよ、といって、街なかにご馳走積み上げて、来てくれってったのはヒトどもじゃないか。こういうのを、騙し討ちっていうんだろう。カァカァ」
 「針金ハンガーで巣を編み上げる工夫だって、並大抵じゃあなかったに・・・。」
 「カァカァ。まったくあいつら、仁義も礼節もしらねェな。鴉だと思ってバカにしてやがる。」

 鴉の言い分にも一理がある。
一九七〇年代には、山手線の内側に鴉はいなかった。八五年に、七千羽。以後急激に増えて、現在三万五千羽だという。
 問題のなかった七千羽にまで(虐殺して)減らすというが、バブル経済期以後、東京のヒトが食べ物を簡単に捨てるようになったということを、まず反省すべきであろう。


                                (西日本新聞2003.10.17)

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