短歌誌『稜Kado』2008.5による・・・2008/05/31 09:39

  阿木津 英歌集『巌のちから』(短歌研究社、2007)


 第一歌集『紫木蓮まで・風舌』を提げて、彗星のごとく歌壇にデビューしたのは昭和五十五年、その著者による第五歌集である。現在、短歌研究誌「あまだむ」を発行している。〈短歌研究誌〉を銘打っての刊行にその意図するところが窺えよう。
 先ず歌を挙げよう。


  微(かす)かなる歌一つ作すのみにして過ぎゆくらしも元日の日も

  三歳を過ぎて片目の野良猫の世の苦浸(し)みたる風情(ふぜい)に歩く

  暗黒にひかり差し入りたましひの抽(ぬ)き上げられむあはれそのとき

  マンションと言ひなす匣(はこ)に住みつきて日日を窮すといふたのしさよ


 著者の心のゆらめきを奏でるように表現された近況が浮かび上ってくる、そうした歌である。三首目は妹の死を悲しむ数々の歌の中の一首で、悲しみをこえて詠みあげた歌人としての作である。また四首目の「匣(はこ)」一字の用語にも注目した。岡井隆氏がオビに「地味ではあるが、成熟した力作」と書いているのにも、「地味」はとも角、共鳴した。


  〈純粋〉をたてまつらむとするものの国体(くにがら)の歌けぶたしわれは

  アウシュビッツの屍体の山のごとくにも累累としてコンビュータ内


 このニ首、通底するものがあろう。異なる事柄ではあるが、ともに著者の厳しく拒絶する-、それはわれわれ自身拒絶すべきものを歌として提示した、歌人としての良心とも言える。また


  青ぐもへ屍臭のぼれる市(まち)ひとつ籠(こ)めて球体浮く闇黒に


などなど、歌集『巌のちから』による刺激の大きさをにれかんでいる。

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